妄想日記6

妄想日記プレイバック
まえがき
この日記は個人的にmixiにアップしていたのですが、ご好評(遠い噂レベル)により、勝手にバックナンバー!おバカな日記ですが実話に基づいております。
暇潰しにもならないでしょうが、勝手に6作目の妄想日記プレイバック!

「妄想日記6」
母は無趣味で物欲が無い。
いまどき、チャンネル変更をボタンやリモコンではなくガチャガチャと右に左に回転させるダイアル式の14型テレビを20年近く使い続け、画面に映ったタレントたちが赤外線サーモグラフィのようにおかしな色合いになってもなかなか買い換えず視聴していたぐらい母は無趣味で物欲が無い。
そんな母が自分でDVDデッキを購入し、レンタルショップに通っている。
何でもこのタイミングで韓流ドラマにはまっているらしい。
そしてそんな事はどうでもいいと全人類が思う中、私は喫茶店に行った。

現在、私たちが住む地球には多種多様な喫茶店が存在する。
オシャレな店内、オシャレなスタッフ、オシャレなBGM、「オシャレカフェ」。
古き良き風情を匂わせる懐かしさいっぱいの「純喫茶」。
現代社会を象徴する「ネットカフェ」。
コスプレがここにも進出「メイド喫茶」。
色々あるが、私が注目したいのは今挙げた店たちではない。

壁には水着のお姉さんがアイスコーヒーを持ったポスター。
完全にマスターの趣味で置かれた漫画(あぶさん全巻)。
テーブルには100円玉を自分の星座の所に入れる事で占いができる、丸いヤツ。
スポーツ新聞、週間現代、FRIDAY。
マスターはファンシーなエプロン着用。
それは「普通の喫茶店」。
ここまで書くと、いったいどこが普通なのだ・・。 
しかしそんな喫茶店は妙に私を惹きつける。
そして今回も訪れてしまったのだ。

私が扉を開けて中に入ると、1人のサラリーマンらしき男性がスポーツ新聞を片手にコーヒーを飲んでいた。
私も席に着き、テレビに夢中のマスターにホットコーヒーを注文した。
「きっと、いまどきのカフェなどに興味の無い中年の人達ばかりなんだろうな。」と私は思った。
やって来たコーヒーを口にしたのと同時にまた1人、40代半ばくらいのサラリーマンの男性が店内に駆け込んできた。
男は入ってくるやいなや、そのスピードを落とすことなく途中にあるスポーツ新聞をつかみ取り、流れる水の如く奥の席に着いた。
私は思った。「慣れたもんだな。」・・と。
すかさず、その男性はマスターに注文した。「アイスコーヒーください。」 
「やはり暑いからアイスコーヒーか。」と私は思う。
この場所において「ラテ」だの「なんたらフラペチーノ」だの無縁のものだ。
マスターは確実にエスプレッソマシーンなど操作できないだろう。・・・
いや、できないでくれ。
目を見張ったのは、男性のもとへアイスコーヒーが運ばれてきたその直後である。
なんと男性は運ばれてきたばかりのアイスコーヒーを一気に飲み干したのである。
これには正直恐れ入った。
全く油断も隙もありゃしない。
そんなに一気に飲んでしまっては、その後どうするのだろうか?
すぐさまおかわり?
もう帰んの?
スポーツ新聞読まないの? 
と要らぬ心配が私の脳を支配する中、「素晴らしきその瞬間」はやって来た。
なんと、一気にアイスコーヒーを飲み干した男性がすぐさまマスターにこう言った。
「ホット1つ。」
・・・ファンタジスタ。
まさにファンタジスタ。
まず、アイスコーヒーで暑さにやられた身体をクールダウン、すかさずそこからゆっくりホットコーヒーでくつろぎの時間が始まる。
この男性は“上級者”だ。
きっとこの店にも毎日のごとく通い、完全にスポーツ新聞の位置を把握し、マスターも彼が望むものの全てを理解している。
男性とマスター。
私など到底足元にも及ばない強烈なツートップだ。

素敵な時間というものは、早く過ぎるように感じるものだ。
そろそろ男性は帰ろうとしていた。
男性を見送るマスター。
男性がマスターに言った。
「ここってどの辺ですか?」
マスターが言う。
「ここは○○通りですから、一本むこうを曲がってもらったら・・」
ジーザス。
私はてっきり男性が常連だと思っていたが、違った。
完全にこの男性は、初めての客だったのだ。
そして、すぐに私は思った。
初めてなのにこの馴染み具合!!
やはりこの男性は“上級者”だ。
店を去る男性の背中に私は“生き様”を垣間見た。
それはマスターの煎れるコーヒー同様、深く、ダンディズムに満ちあふれている。

妄想日記著者近影