ハクとの想い出
数年前に遡る話なのだが、家の並びに大きな白い犬が飼われていた。
その家の玄関は家の正面が全面に可動式の柵になっており、自家用車や自転車などが置いてあるガレージになっている。
奴はそこの片隅に置かれた犬小屋を拠点に、放し飼いにされていた。
引っ越して来た自分は、その家の前を行き来して通勤しているのだが奴は自分が家の前を通ると必ず奥から柵の前まで全力疾走で吠えながら走ってやって来る。
当然、引っ越して来たところの自分はビクっとするのだが、奴は吠え続けている。
ある一定の距離が開くまで飽きずにずっとだ。
おまけに勝ち誇ったような面までしていやがる。
おまけに勝ち誇ったような面までしていやがる。
昼間よりも夜の帰宅途中にこれをやられると正直、心臓に悪い。
数日間やられっぱなしだったが、毎回驚いている自分にも少し腹がたった。
数日間やられっぱなしだったが、毎回驚いている自分にも少し腹がたった。
それと同じ様に知らない他人がやられているのを目撃し、同じ様に吠えられて驚いている人を見て少しニヤっとしてしまった。
皆、被害に遭っている。
皆、被害に遭っている。
数日後自分は作戦を変えてみた。
散歩に連れられてなのか奴が不在の時もあったのだが、いつもと同じ様に吠えながら走ってくる奴に歩み寄り勝手に奴の事を「ハク」と呼び、(奴は真っ白い秋田か柴犬なのだが)呼び掛けてみた。
昔に親戚が大きな真っ白い秋田犬を飼っていて、そいつの名前が「ハク」だったのだ。
奴は少し距離を置いて相変わらず威嚇してくる。
手を差し出しムツゴロウ氏の様に「ハク、ハク、こっち来い。」と呼び続けてやった。
奴は若干、動揺している。
手を差し出しムツゴロウ氏の様に「ハク、ハク、こっち来い。」と呼び続けてやった。
奴は若干、動揺している。
しかし奴は変わらず吠え続けてくる。
長期戦の予感がよぎる。
長期戦の予感がよぎる。
数日間、心理戦が続いたのだが奴もこちらの作戦に動揺が隠せない。
少しやり難そうな表情をして吠え続けてはいたが、尻尾を左右に振りはじめたのだ。
何度か通行人にその攻防を見られはしたのだが、そんなの関係ない。
これは男と男のサシの真剣勝負なのだ。
飼い主に攻防を見られそうになった時は、さっと身をひるがえし、戦いの日を変えたりしていたのだが。
これは男と男のサシの真剣勝負なのだ。
飼い主に攻防を見られそうになった時は、さっと身をひるがえし、戦いの日を変えたりしていたのだが。
その日はある日突然にやって来た。
相変わらずも足音を消しながら奴の家の前を通り掛かった時に吠えずにしかも恥ずかしそうな顔をして近づいて来たのであった!
相変わらずも足音を消しながら奴の家の前を通り掛かった時に吠えずにしかも恥ずかしそうな顔をして近づいて来たのであった!
奴は自分が差し出す手を匂ぎ「クンクン」言いながらシッポはワイパー状態。
オデコの辺りを凄い速さでさすってやると「クイ~ン」と鳴いた。
奴は遂に私の軍門に下ったのだった。
奴は遂に私の軍門に下ったのだった。
その日からは他人を吠えたりしていても自分が近づいて行くと、同盟者の様に恭しくやって来る。
たまに食事帰りには犬の好物であるカルビの骨などを奴にやった日には尻尾は高速回転。
奴の心を完全に奪ってやった。
奴の心を完全に奪ってやった。
そんな奴との蜜月が数年続いたのだが、出会いがあれば別れもある。
何歳だったのか、本当の名前は何だったのか、まったく知らないままだったのだが奴は年をとって衰え、おそらく今世を全うしたようだ。
来る日も来る日も通行人を吠え続けていた通称ハクとの想い出。
昔によく遊んだ親戚の家の犬、「ハク」を懐かしむ様な貴重な時間をありがとうと言いたい。
与えられたテリトリーを守り続けていた奴は間違い無く忠犬であった。